第一回から参加しています

ご縁があって第一回から参加しています。始めは大人数で会場も大きいとこ ろでしたが、 講演会式ではなく読書を通したコミュニケーションの場になるようにと町田さんや事務局の方が試行錯誤を重ねてくださり、だんだん少人 数・参加型の会となり、それに伴い参加者の間の意見交換が活発になってきています。これをご覧になっている方の中には参加しようかどうしようか迷って いるけれども、行ったことのない場所で知らない人に囲まれて、町田さんのよ うな文学の神様的な人と文学について語り合うなんてハードルが高すぎる…… と申込みを躊躇している方もいらっしゃるかもしれません。そんな方の参考に なるかわかりませんが、私がこの大磯読書会に思い切って参加して良かったな と思っていることを二つご紹介します。

一つ目は、以前と本の読み方が変わったことです。何か引っかかる、よくわからないところのたくさんある作品が良いというようなことを町田さんがおっしゃったことがあります。読者に考えさせる余白の多い文学作品というのは、読んでいて訳がわからないし、スッキリしないものですが、わからないところで立ち止まって、込められた意味を自分なりに掘り起こしていくことで読書という行為に断然深みが出てくるのだということを教えていただきました。例えば、中原中也の詩集が課題本になった回では、一編の詩の中の一行の一つの言葉を一行目から先に進まなくなるほど執拗に読み込み、参加者の方も意見を述べあったりしているうちに時間が足りなくなってしまうほどだったのですが、自分一人で読んでいては絶対に開けなかった世界がぱっと開けたような気がしました。そしてこれまではなんとなく読み飛ばしていたようなことでも、割としつこく考えるクセのようなものがついてきました。これは結構めんどくさいというか、精神的労力を必要とすることであるうえに、それが何の役にたつのとかというと実生活上の益はないような気もするのですが、心の片隅に正解のない問いを抱え込んでいくこと、それに伴って作品の中にあった情景や登場人物の心情といったこの世とは別の世界の記憶を持つということ、町田さんもおっしゃっていたのですが、そういうことが「生きていく上での補助線のようなものになる」のではないかと思います。またふとした時に心の表層に現れてその時の自分の感情を沿わせることができる杖のようなもの、あるいは、普段意識せずとも常に自分を後ろから支えてくれるつっかい棒のようなものにもなるような気がします。

良かったこと二つ目は、読書という行為そのものに対する意識が変わったことです。以前は本を読むという事は孤独な作業であるので、それを人と分かち合えるとはあまり考えていませんでした。当たり前と言えば当たり前なのですが、読み方・感じ方に正解はないので、参加者の感想は様々です。自分と全く違う視点や切り口からの意見を聞くと、同じ作品に対してこんなに幅があるのかと予想の上をいく展開が刺激的でとても楽しく、そして、その場にいる方の意見を直に聞くというのは、話し方や雰囲気といった言葉以外の情報量がたくさんありますので、ネット上の本のレビューを閲覧することでは得られない密度の高い体験です。作品を通して、ついさっきまで知らなかった人同士が心の深いところから出てきた感想を語り合えるということは、ある意味、作品の内容そのものよりも大事で、すごいことかもしれません。また感想には否応なしに自分自身が反映されてしまうので、他の人の感想と自分のものを引き比べることによって、気がついていなかった自分の一面に気づくこともありました。この会のキャッチコピーに「人体実験をしてみよう」とありますが、その言葉通り参加する前と参加した後では、人体実験を通して、本の読み方だけでなく自分が少し開けた方向に変わったような気がしています。

ということで、参加を迷われている方、とりあえず「行かなきゃ良かった」ということにはならないと思いますので、少人数の会になったため参加枠争奪戦かもしれませんが、ぜひ申し込んでみることをおすすめします。そして、参加して仮に感想が思ったように言えなくても、読書会と大磯の雰囲気を味わうだけでもお越しになる価値はあると思います。(大磯と言うと鎌倉・茅ヶ崎など他の湘南地域に比べて知名度が低く地味な存在で、ある一定以上の年齢の人にとってはかつてアイドルの水泳大会が行われていたところですが、実は湘南発祥の地といわれ、海も山もあり史跡も豊富、の割には観光地化されておらず休日を脱力して過ごすには最適の場所です)

最後に、この会を始めてくださった和多田さん、和多田さんが亡くなった後 もお忙しい中継続してくださっている町田さん、諸々お世話をしてくださって いる事務局のUさん、そして素敵な会場を提供してくださっているmagnet様に 感謝いたします。これからも大磯読書会は変化しつつ回を重ねることと思いますが、どのように変わっていくにしても、あえて決まった着地点を定めず、かっちりとした枠組みを作ることなく、大磯ののんびりした雰囲気に合った(でも内容は熱い)良き場であり続けて欲しいなあと願っています。

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